お月さまほしい

アイドルとわたしについてのあれこれ

WESTが町にやってくる

ロックバンドがやってくる。わたしの町にやってくる。あの日見た東の空は焼けているというよりは光っていた。眩しい眩しい朝の光だった。


あの頃、12歳。ライブハウスツアーだった「ポルノグラフィティがやってきた」に足を運ぶことは出来なかった。それでも、大好きなロックバンドが町にやってくる事に一日中そわそわした。「ロックバンドがやってきた」を口ずさみながらセーラーのタイを結び、このまま乗っていけばライブハウスなのになぁなんて後ろ髪引かれながらバスを降りて、お気に入りの歌詞の一節を表紙にデコったノートを開いて授業を受けた。もう着いたのだろうか、お昼は何を食べたのだろうか、ライブは始まっただろうか、なんて日がな一日想像を膨らませた。あの頃は知る術が無かった。
「ロックバンドのいる町」はいつもの町なんかじゃない。通学路がライブハウスに繋がっていることだけでも胸が張り裂けそうだった。全ての景色がロックバンドに触れているように感じた。全ての景色が「好き」に包まれていた。あの日だけ、町は何かが違った。
今日が特別な日であることを誰にも話さず、何事もないような顔つきで学校を出てライブハウスとは逆方向に向かうバスに乗った。ツアーに引っさげられたアルバムをクリスマスに買ってもらったポータブルCDプレーヤーでひたすら聴きながらしずしずと家路についた。
 
 
大好きなアイドルがやってくる。ひとりぼっちで住む町にやってくる。この町でひとりぼっちで好きになって、ひとりぼっちで沢山の曲を聴き、見ていた、あの人達かやってくる。家から少し歩くとある、あの駅から電車に乗れば会いに行ける。この町を出るまでにはきっとやってくる、と信じていた。こんなに早く来てくれるとは思ってもみなかった。
 
メールを受け取ってすぐに手帳に予定を書き込んだ。
予定は入っていない。大丈夫。
外に出るとここが来る町になるのかぁ…なんて感慨深い気分になった。漕ぎ出した自転車のペダルは軽く、今なら何でもやれそうな気がした。
あの頃の私が少しだけ顔を見せてくれて、また会えたねって手を握ってくれた気がした。